まちぱんだの漫画とか備忘録

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『亜獣譚』 感想

亜獣譚(1) (裏少年サンデーコミックス)

亜獣譚(1) (裏少年サンデーコミックス)

 

概要&あらすじ

『亜獣譚』(あじゅうたん)

作者は江野スミ先生。全8巻(完結済み)。小学館の漫画アプリ「マンガワン」にて連載していました。

性交渉によって感染し、人が害獣と呼ばれる怪物になってしまう病気「害獣病」。そんな病気が蔓延している世界を舞台にしたダークファンタジーです。

森で遭難した害獣駆除兵の男アキミアは、行方不明の弟を探しているという美女ソウに出会います。しかし、ソウの弟は脱走した駆除兵見習いで、しかも森でアキミアを襲った謀反人。アキミアは弟の謀反を見逃す代わりに、ソウに自分と結婚するよう条件を持ちかけます

ダークヒーローと聖女ヒロイン

まず、主人公がゲスで悪人です。もう弁護のしようがありません(笑)。

第一話でアキミアはソウへ取り返しのつかないある罪を犯します。それは感染のリスクを伝えずに性交渉をし、害獣病をソウにうつすというもの。しかも、そんなことをした理由は「ソウは自分のせいで死んだ女に似ていた。あの人に似たソウに憎まれ殺されることが、あの人に償うことになると思った」という、かなりブッ飛んだもの。しかし、アキミアは本気でこれが正しいことだと思っています。悪人は殺しても良い、子供をいじめる奴を許さない、など、彼には彼なりの歪んだ信念があり、それに則って人を殺しもするし、助けたりもするのです。

そして、ソウもただ美しいだけのヒロインではなく、なかなか魅力的な人物です。アキミアにされたことに対して激怒するソウですが、彼女は底抜けに愛情深く優しい人です。一度は好きになって体を許した相手であり、弟の恩人でもあるアキミアに複雑な感情を抱き、彼を手放すことが出来ません。アキミアが悪人だと分かっていながらも、愛するようになります。自分の信念に則って生きるアキミアとは対照的に、ソウは善悪についてはよく分からない、けれど圧倒的な愛情や優しさを知っているキャラクターです。

苦しむマイノリティ=亜獣?

人と言うには動物的で獣にしては感傷的すぎる

名前のつかない怪物がこの中にいる

これは作品からの引用ですが、始めこそ動物的なアキミアのことだと思っていました。が、最終話まで読み終えての個人的な解釈としては、この言葉は作品に出てくる様々なマイノリティ達の、共通の気持ちだと思っています。人として生きるか害獣として生きるか迷う人、動物的な欲求に抗えない人、自分では人間と何ら変わりないと思っているアンドロイド…。人間でもない。獣でもない。その間を行き来して苦しむ者が「亜」獣なのではないか。この亜獣たちは、どんな自分なりの答えを出すのか。自分を受け入れはしない世界に、どう折り合いをつけていくのか。それがこの作品の一つのテーマではないかと思います。

じっくり漫画を読みたい人、キャラクター重視の人にオススメ

「亜獣譚」は、一話一話かなり読みごたえがあるので、じっくり腰を据えて考察しながら漫画を読みたい人にオススメです。それぞれのキャラにしっかり背景があり、背景ゆえの個性があり、善人も悪人も魅力的です。バトルはほぼ無いので、アクションファンタジーを求めている人には向かないかもしれません。が、絵の躍動感は凄いです。余談ですが、江野先生の描く猫は表情豊かで必見です(笑)。

気になったらぜひ読んでみてくださいね(^ ^)